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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)2648号 判決 1976年7月12日

原告

竹田徹男

ほか一名

被告

飯山重行

主文

一  被告は原告竹田徹男に対し金一一八万一、九三九円および内金一〇八万一、九三九円に対する昭和四九年八月二〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告竹田朗に対し金一万四、八五七円およびこれに対する昭和四九年八月二〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告

(一)  被告は原告竹田徹男に対し金一三八万二、八七〇円及び内金一二八万二、八七〇円に対する昭和四九年八月二〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告は原告竹田朗に対し金一一万二、二四一円およびこれに対する昭和四九年八月二〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

(四)  仮執行の宣言。

二  被告

(一)  原告らの請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

次の交通事故により原告竹田朗(以下単に原告朗という。)は受傷し、原告竹田徹男(以下単に原告徹男という。)はその所有の自動車に損害を受けた。

(一)  日時 昭和四九年八月一九日午後七時頃

(二)  場所 栃木県芳賀郡益子町大字大沢六五〇の六先路上

(三)  加害車 普通乗用自動車(栃五五せ七八号)

右運転者 被告

(四)  被害車 普通乗用自動車(茨五五め九〇九〇号)

右運転車 原告朗

(五)  態様 被告は酒気を帯びて加害車を運転し、センターラインオーバーをして対向車である被害車に加害車を衝突させた。

二  責任原因

被告は、加害車を所有しこれを自己のために運行の用に供していたものであり、また、本件事故は被告の前方注視および車線保持の各義務違反によつて惹起されたものであるから、原告朗の人的損害については自賠法第三条により、原告徹男の物的損害については民法七〇九条により、それぞれこれを賠償する責任がある。

三  損害

(一)  原告朗の損害

原告朗は本件事故により頭部打撲、顔面挫創の傷害を受け、入院八日、通院延五四日(実通院日数三日)の加療を余儀なくされた。

右受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

1 治療費 三万七、三六七円

2 入院雑費 四、〇〇〇円

前記入院期間中一日当り五〇〇円の雑費を要した。

3 付添看護費 一万六、〇〇〇円

前記入院期間中、原告朗の母が付添つて看護に当つたので、一日当り二、〇〇〇円の付添費相当の損害を蒙つた。

4 休業損害 三万〇、六四六円

原告朗は本件事故当時いわゆるアルバイトとして日本ビーシージー製造株式会社に勤務し一日平均二、一八九円の収入を得ていたところ、本件事故のため昭和四九年八月一九日から一四日間の得べかりし収入を失つた。

5 慰藉料 一五万円

(二)  原告徹男の損害

1 修理費 九七万八、八七〇円

2 代車料 二二万五、〇〇〇円

3 見積、写真代 一万五、〇〇〇円

4 レツカー車代等 五万四、〇〇〇円

5 弁護士費用 一〇万円

四  損害の填補

原告朗は、自賠償保険から前記損害に対する賠償額の支払として一二万五、七七二円を受領した。

五  結論

よつて、被告に対し、原告徹男は一三八万二、八七〇円および内金一二八万二八七〇円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和四九年八月二日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告朗は一一万二、二四一円およびこれに対する前同日から同割合の遅延損害金の各支払を求める。

第三請求原因に対する被告の答弁および抗弁

一  認否

(一)  請求原因第一項については、(五)の態様は否認し、その余の事実は認める。

(二)  請求原因第二項(一)を争い、(二)は否認する。

(三)  請求原因第三項については、(一)の3、4、5および(二)の5は否認し、その余の事実は不知。

二  抗弁

被告は、事故現場道路を大羽方面から七井方面に向つて進行中、自車の進路前方に耕運機がとまつていたので、その側方を通過すべく前方を見たところ、対向車線を進行してくる原告朗運転の被害車との距離は相当あつたので、十分通過できるものと考えて側方通過に入つたのであるが、被害車の接近が非常に早かつたため、おどろいて鋭角に左にハンドルを切り自己の車線に入ろうとしたけれども間に合わず、被害車が加害車の後部に衝突したものである。したがつて、本件事故発生については、原告朗にも一〇〇キロメートル以上の速度で進行していた速度違反、前方不注視、ブレーキ操作を怠つた過失があるから、右過失は損害賠償額の算定に当つて斟酌されるべきである。

第四抗弁に対する原告の認否

否認する。

第五証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因第一項の事実は事故の態様を除いて当事者側に争いがなく、本件事故の態様は後記認定のとおりである。

二  責任原因

成立に争いのない甲第一一号証の一、二、同第一二号証の一ないし四、事故後の被害車の写真であることに争いのない乙第一号証の一、二、事故後の加害車の写真であることに争いのない乙第一号証の三、四ならびに原告朗および被告の各本人尋問の結果を総合すると、

(一)  本件事故現場は、南北に通ずる幅員約五・五メートルのアスフアルト舗装の見とおしのよい直線道路であること。

(二)  被告は、自己所有の加害車を運転して右道路を北進し時速八〇キロメートル位の速度で本件事故現場附近に差しかかつた際、前方を葉たばこのような大きな荷物を積んだ耕運機が遅い速度で進行していたので、これを追越すため加速しながら道路右側に出たとき、前方六、七〇メートルのところを進行してくる被害車を認めたが、被害者の方でブレーキを踏み減速してくれれば追越は可能であると考えそのまま追越を続行しようとしたところ、被害車が意外に早く接近してきたので危険を感じブレーキを踏みながら左にハンドルを切つて自己の車線に戻ろうとしたが、加害車は右側車線上で横すべりして自己の車線に戻ることができず、同車線上で被害車前部と衝突したこと。

(三)  原告朗は、被害車を運転して前記道路を南進し時速六〇キロメートル位の速度で本件事故現場附近に差しかかつた際、大きな荷物を積んだ耕運機が対向してくるのを認めやや左にハンドルを切つてこれとすれ違おうとしたとき、自車の進路上を横すべり状で進行してくる加害車を目前に発見したが、有効な避譲措置をとり得ないまま自車前部を加害車右側面に衝突させたこと。

(四)  事故後、現場には加害車の進行方向に向つて道路右側に加害車のものと認められる右側一五・三メートル、左側二三・三メートルで北方に進むにつれて左右の間隔の広くなつたタイヤ痕が残つていたが、被害車のものと認められるスリツプ痕等は見当らず、また、事故当時被害車はヘツドライトを点燈していなかつたこと。

(五)  被告は事故前一時間位の間に清酒コツプ二杯を飲酒し、事故当時酒気を帯びた状態であつたこと。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によると、被告は加害車を自己のために運行の用に供していたものであり、また、本件事故は、被告が酒気を帯び前方の安全を確認することなく右側車線に出て追越を開始し、対向車発見後も追越を中止することなく無理な追越を続行しようとした過失によつて惹起されたものであると認められるから、被告は自賠法三条に基き本件事故によつて生じた人的損害を、民法七〇九条に基き本件事故によつて生じた全損害を賠償する責任がある。

三  損害

(一)  原告朗の損害

原告朗本人尋問の結果によつて成立を認め得る甲第二号証の一、二、同第三号証の一、二および原告朗本人尋問の結果によれば、原告朗は本件事故のため顔面挫創の傷害を受け、事故当日から昭和四九年八月二六日まで八日間芳賀赤十字病院に入院して治療を受け、同年九月二日から同年一〇月二五日までの間に三回水戸赤十字病院に通院して頭部打撲による障害の有無について諸検査を受けたことが認められる。

そこで、以上の事実を前提に以下損害の数額について判断する。

1  治療費等 三万七、三六七円

前顕甲第二号証の二および同第三号証の二によれば、原告朗は前記入院治療および検査の費用として三万七、三六七円を支払つたことが認められる。

2  入院雑費 四、〇〇〇円

前認定の原告の傷害の部位、程度、入院期間からすると、入院期間一日につき五〇〇円、合計四、〇〇〇円を下らない雑費を要したものと推認される。

3  休業損害 二万四、〇七九円

原告朗本人尋問の結果により成立を認め得る甲第四号証の一、二および原告朗本人尋問の結果によると、原告朗は日本大学在学中の学生であるが、本件事故当時、いわゆるアルバイトとして日本ビーシージー製造株式会社に勤務し、一日平均二、一八九円の収入を得ており、本件事故にあわなければ少くとも夏季休暇中は右勤務を続けるつもりであつたことが認められ、右認定を覆すにたる証拠はない。

右事実によると、原告朗は本件事故のため右日収の一一日分二万四、〇七九円の休業損害を蒙つたものと認められる。

4  慰藉料 一〇万円

前認定の原告朗の傷害の部位、程度、治療経過、その他本件に顕れた諸般の事情を斟酌すると、本件事故によつて原告朗が受けた精神的苦痛は一〇万円をもつて慰藉するのが相当であると認める。

なお、原告朗は付添看護費の請求をしているが、前示受傷内容からすると当然に付添の必要があつたとはいえず、原告朗本人尋問の結果中の入院中最初の数日は身体を動かすこともできなかつたという供述も前掲の証拠に照らして措置し難く、他に付添の必要性を認めるにたる証拠は存しないので、付添看護費は認め得ない。

(二)  原告徹男の損害

1  修理費 九七万八、八七〇円

原告徹男本人尋問の結果によつて成立を認め得る甲第五号証の一、二、同第一四号証の一、二および原告徹男本人尋問の結果によると、原告徹男は被害車を君山鈑金塗装工業所および三和自動車整備工場で修理し、修理代として九七万八、八七〇円を支払い同額の損害を蒙うたことが認められる。

2  代車料 二二万五、〇〇〇円

原告徹男本人尋問の結果によつて成立を認め得る甲第六号証および原告徹男本人尋問の結果によると、被害車の修理は昭和五〇年五月末頃までかかり(被告の方で修理するということで被害車は事故現場近くの修理工場に預けられていたが被告が修理代を支払わなかつたため約八ケ月放置され、その後原告が引取つて修理した。)その間被害車を使用することができなかつたので、原告徹男は右期間中に三和自動車整備工場から七五日間代車を借り受けて二二万五、〇〇〇円の代車料を支払い、同額の損害を蒙つたことが認められる。

3  見積、写真代 一万五、〇〇〇円

原告徹男本人尋問の結果により成立を認め得る甲第七号証および原告徹男本人尋問の結果によれば、原告徹男は被害車の修理代の見積書の作成および破損状況を撮影した写真代として君山鈑金塗装工業所に一万五、〇〇〇円を支払い、同額の損害を蒙つたことが認められる。

4  レツカー車代等 五万四、〇〇〇円

原告徹男本人尋問の結果により成立を認め得る甲第八号証の一、二および原告徹男本人尋問の結果によれば、原告徹男は被害車のけん引料および保管料等として五万四、〇〇〇円を支払い、同額の損害を蒙つたことが認められる。

四  過失相殺

前記二に認定した事実によれば、本件事故発生については、原告朗にも、見とおし良い直線道路であるにもかかわらず加害車が追越態勢に入つているのを直前まで気づかなかつた過失があると認められるので、右原告朗の過失は損害賠償額の算定に当つて斟酌すべきであるところ(弁論の全趣旨によれば、原告らは同居の親族であると認められるから、原告徹男については原告朗の過失を被害者側の過失として斟酌すべきである。)、原告朗において早期に加害車の追越開始を発見し若干減速すれば本件事故の発生は避け得たとも考えられるが、前認定の被告の過失内容等諸般の事情を考慮すると原告らの前記損害額から各一割五分を減じた額をもつて被告に対し賠償を求め得べき額とするのが相当である。

五  損害の填補

原告朗が自賠責保険から本件事故に関し一二万五、七七二円を受領したことは、同原告において自認するところであるから、これを前示原告朗の損害額から控除すべきである。

六  弁護士費用

原告徹男本人尋問の結果によれば、原告らは被告が本件事故によつて受けた損害の賠償請求に任意に応じなかつたため原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、同人に対し原告徹男において報酬等として一〇万円の支払を約していることが認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、認容額に照らすと、右額は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

七  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告に対し、原告徹男において一一八万一、九三九円および内弁護士費用を除いた一〇八万一、九三九円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和四九年八月二〇日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告朗において一万四、八五七円およびこれに対する右同日から支払ずみに至るまで同割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 笠井昇)

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